はじめに

大切な落とし物を拾って
まだ子供が小さい頃、自宅から比較的近い大きな公園に友人家族と、遊びに出かけた時のこと。東屋で休憩し私は立ち上がろうとして、ふとイスの下に目をやると何やら黒いものが落ちていました。
拾い上げると、ズッシリと重い男物の黒い革製のお財布でした。私はビックリして公園の中にある管理事務所に走って届け出たのです。
規則通り関係者の目の前で中身を確認すると、万札がかなり入っており、カード類も沢山ありました。事務所の方に一応規則だからと言われ、住所と名前を記入して帰ってきました。

翌日、早速事務所から連絡があり公園に出向いてみると、何やら立派な箱が二つ置いてあり、その場で中身を確認すると、高級バスタオルとブランド物のエンジのバックでした。私はその時、何とも気が重くなったのを覚えています。
その立派な箱は中身が入って今も押し入れの奥にしまったままです。落とし主の代理の方から「ありがとうございました」と伝言があったそうです。
徒歩と自転車との遭遇
もう一つの出来事は出勤の為、徒歩でバス停に向かう私と猛スピードで走ってきた自転車と、小さな路地で出合い頭にぶつかり私は転んでしまいました。
徒歩と自転車なので私の場合、大した事はありませんでしたが思わず「前方をよく確認してください」と伝えたところ、30代くらいの男性でしたが「すみません、入院している母親が急変したので慌てて病院に行くところ」というような事を言って居りました。
私はビックリして「それなら私にかまわず急いで病院に行って下さい」と伝えると、その男性は「住所と名前だけでも教えてください。後で挨拶に伺います」と言って私に手帳を渡したのです。確かにその後私は自宅で湿布を張り替えるなどして過ごしていました。

そんなある日、見慣れぬ男性の訪問でオートロックを解除しエントランスに入ってくるのを確認した私は急いでエレベーターで階下に降りて行きました。すると、先日自転車でぶつかった男性が菓子折りを持って現れたのです。
私は「全然何ともなかったし、大丈夫ですから」と伝え、とっさに「お母さんの具合は如何ですか?」と聞いたところ「亡くなった…」と一言!私は緊張のあまり言葉が見つかりませんでした。
そして頂いた菓子折りの小さな包みを大事に大事に抱え、お母様のご冥福をお祈りすると共に神棚や仏壇に供えて、夕食後家族と一緒に美味しく頂きました。
